海と山に囲まれたとある町の外れにある工場に一人の男がいる。
日夜、私欲を捨て自らが暮らす町の平和のために活動を続ける男。愛と勇気を胸に悪に立ち向かう彼を、人々はその容姿―顔がアンパンでできている事から彼をこう呼んだ。『アンパンマン』と。
事件は、ある雨の日に起こった。
アンパンマンはもう3日は降り続いている雨から身を守るために、傘をさして歩いていた。ふと、とある路地を通りかかった時、大きなゴミ収集コンテナの陰からうめき声ともとれる物音が聞こえた。何事かと思い、アンパンマンが歩み寄ると、カバのような少年、いや青年が倒れている。
「あ・・・ん。こ・・・パ・・・に・・・」もはや声も出せないほどに疲弊している、そしてカバの体には無数の傷と痣が残されていた。その口を、必死に動かして何かを言おうとしている。
「おい、どうした!?ヒポポタマス!」
アンパンマンは彼に言葉をかけたが、カバは思うように言葉が出てこないらしい、この様子じゃ当然だ。アンパンマンはカバにこう告げた。
「よし、俺の顔を食べるといいさ。」
そういって自分の顔を一握り小さくちぎると、倒れているカバの口に押し込んだ。
「ああ!あんたは、アンパンマン!探していたんだ、急に黒ずくめの男に襲われてこんな目にあった。僕は薄れ行く意識の中でアイツの言葉を聞いた。『生かしておいてやる、目が覚めたらお前のポケットのメモを町外れのパン工場に届けろ』、そう言ってたんだ、アイツ、きっとアンタを狙ってる!」
カバは急に喋りだした。そしてポケットから一枚のメモを取り出した。カバがアンパンマンにメモを渡すと、アンパンマンは無言でメモに目を落とした。
【バタ子は預かった。返してほしければ、一人で埠頭の3番倉庫に来い。
バイキンマン】
「チッ・・・」
アンパンマンは舌打ちをしてからカバに告げた。「酷い目にあわせて済まなかった。今度、美味いアンパンをご馳走するよ。」そういって、アンパンマンは駆け出した。さて、バイキンマンとは、いつの間にかこの町に住みついていた狂気の科学者である。バイキンマンはこの町の支配者になろうとし、これまでも何度かその発明品で町を恐怖に陥れたが、そのたびにアンパンマンに阻止されている。バタ子というのは、アンパンマンの育ての親のようなモノである、そのバタ子を人質に、アンパンマンを抹殺しようと試みたのだろう。
埠頭の3番倉庫には、鍵はかかっていなかった。
ドアをあけると、金属の擦れる音がする。中はがらんとしていて、静かだった。アンパンマンは、照明のスイッチを探してスイッチを入れてみたが、照明はつかなかった。奥に、何かが置いてある。アンパンマンは用心して近づいた。椅子に、人が縛られている、意識はないようだ。
「バタ子さんっ!」
アンパンマンは駆け寄って、縛られている人物―バタ子に声をかけた。頬を軽く叩くと、バタ子は意識を取り戻した。
「バタ子さん、大丈夫か!?今、縄を解く!」
そういって、アンパンマンが縄に手をかけた瞬間、上から水が降ってきた。
バシャッ!
アンパンマンは頭からつま先までビショ濡れになってしまった。
「くっ・・・顔が、濡れて・・・力が、出ない・・・」
アンパンマンはその場にうずくまってしまった。バタ子の叫びが静寂にこだまする「アンパンマーン!」
その静寂を、笑い声が破った。
「はひふははー!まんまと罠にかかってくれたな、アンパンマン!」
声の主は、バイキンマンだった。倉庫の入り口のほうからゆっくりと歩いてくる。アンパンマンはバイキンマンを睨んだ。
「バイキン、てめぇ・・・!」
アンパンマンは立ち上がろうとするが、カバに食べさせたので頭が欠けている上に顔が濡れて力が出ない彼には、戦うことはできなかった。
バイキンマンの足が、アンパンマンの顔にヒットした。
「うっ!」うめき声をあげてアンパンマは倒れる。地面に顔を打ち付ける、口の中が切れたのだろう、口の中にアンコの味が広がった。
バイキンマンは不敵な笑みを浮かべながら言った。
「今日こそ積年の恨みを晴らさせてもらうぞ。この新発明、KABI=ルンルンでな!」
KABI=ルンルン、バイキンマンの発明した生物兵器である。ボツリヌス菌、サルモネラ菌、ブドウ球菌、病原性大腸菌(O157)等の黴菌を調合したものを発射する武器で、人はもちろん特にアンパンマンのような戦闘食物には効果大である。
KABI=ルンルンの砲口がアンパンマンを捕らえ、バキンマンが発射しようとしたその時、倉庫の入り口から黒い影が飛び込んできた。
ドンッ!
影はバイキンマンにぶつかり、バイキンマンは転げた。影はそのままバタ子のところへ向かい、縛っていた縄を噛み切った、大きなドーベルマンだった。
「チーズ・・・」
バタ子は安堵の表情を浮かべた。倉庫の入り口に1200CCはあろうかと思われる、大型のバイクとサイドカーが止まっている、その青い車体には【アンパンマン号】と赤いカッティングがしてあった。
バイクに跨った男が低い声で言った。「ふん、間に合ったようじゃな。」ゴーグルの奥の鋭い眼光、白い髭、大きな鼻が雨の向こうで光っている。
「ジャ、ジャムのおやじ・・・」
アンパンマンは何とか立ち上がりながらジャムを見た。が、次の瞬間、叫んでいた。
「ジャムさん、逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」バイキンマンが立ち上がり、KABI=ルンルンをジャムの方へ向けていたのだ、引き金には指がかかっている。
ジャムは、サイドカーからジュラルミンケースを取るとアンパンマンに向かって投げた「受け取れぇーい!」、それと同時にアクセルを全開にした。
「逃がすか、ジャム!しねぇぇぇぇー!」同じタイミングでバイキンマンがKABI=ルンルンを発射する、が刹那のタイミングでアンパンマンが何とかバイキマンにしがみつき、狙いが外れたKABI=ルンルンはバイクに命中した。
「邪魔するんじゃねぇ!お前等はここで終わりだ!」
バイキンマンがアンパンマンを蹴り飛ばす、アンパンマンは再び地面に転がった。額からアンコがはみ出る、それでも彼は諦めない「負けてたまるか・・・俺の愛と勇気はまだ尽きていない・・・!!!」
「アンパンマン、やはりお前から片付けないとダメなようだな。」
ジャムはKABI=ルンルンがバイクに当たったことで操縦を誤り、バイクから放り出されて地面に倒れた。意識の薄れ行くジャムの目に、さっき放ったジュラルミンケースにバタ子が走りよるの姿が映った。
バタ子は…バイキンマンがアンパンマンに気を取られている隙にジュラルミンケースを開けた。ジュラルミンケースの中には・・・ホクホクと美味しそうな湯気を立たせて輝く焼きたてのアンパンがあった。
「これは・・・?」
バタ子はそのアンパンを手に取った。横からチーズが「ワォンッ」と吠えた。その声が合図になったのかバタ子はアンパンマンのほうを向いた。バイキンマンの手のKABI=ルンルンがアンパンマンの顔を至近距離で狙っている。チーズが突然走り出す、バタ子は渾身の叫びをあげた。
「アンパンマン!新しい顔よーッ!」
バタ子は焼きたてアンパンを投げる。キレイな放物線。KABI=ルンルンが発射されると同時に、チーズが体当たりをする。バイキンマンは再び転んだが、KABI=ルンルンはアンパンマンの顔に命中した。見る見るうちに、アンパンマンの顔が腐敗していく・・・「うあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!・・・あ・・・ぁ・・・」
バイキンマンは立ちあがると同時にチーズに向かって駆け出した。「クソ犬ッ!2度も俺様にッ・・・!許さんぞぉぉぉぉー!」その形相にチーズは凍りついて動けない。バイキンマンの足がチーズめがけて振り上げられる。バタ子は叫ぶ「チィィィィィィィィズゥゥゥゥゥゥ!!!!!」
その瞬間、小さい声が、しかししっかり通る声が響いた「待て・・・」。
バイキンマンは、足を下ろしてそっと振りかえった。そこには、アンパンマンが立っていた。
バタ子の投げた新しい顔は、アンパンマンの断末魔の悲鳴と同時に彼の顔に命中していた。そして、なんと顔が入れ替わったのだ!瞬く間にアンパンマンは力がみなぎってくるのを感じ、立ち上がり、力強い眼差しで言った。
「ギリギリだったけど、もう大丈夫、勇気リンリンだ。バイキンマン、覚悟はいいか?俺が、元気100倍アンパンマンだ!」
「アンパン・・・貴様っ!」
バイキンマンがKABI=ルンルンを構える。それより一瞬早く、アンパンマンはバイキンマンの懐に入った。「お前に、愛と勇気を教えてやるッ!いざ、ほとばしれ俺の愛と勇気!喰らえッ!!!うおおおぉぉぉぉああぁぁぁぁァァァアアアアアアンパァァァァァァァァァンチッ!!!!!!!!!!!!」

バイキンマンの顔面にヒットした拳は、愛と勇気に満ちていた。「はひふぐふぉ」と声を漏らしバイキンマンはその場で膝から崩れ落ちた。しかし、慈愛に満ちたアンパンマンの拳は、バイキンマンの命までは奪わなかった。「勝った・・・」そう言いながら、アンパンマンはサングラスをかけタバコに火をつけた。バタ子が歩み寄ってくる「アンパンマン・・・」。その時である、倉庫の入り口から真っ赤なスポーツカーが飛び込んできた。
その車はバイキンマンの横でキュキュッと音をたててとまった。ドアが開き、女が降りてくる。
「バイキンマン!いつまで倒れてんのさ、さっさと逃げるわよ!」
「くっ。ド、ドキンちゃん・・・」バイキンマンは意識を取り戻し、女―ドキンと呼ばれた女を見上げた。そして、車に乗り込もうとした。アンパンマンは思わず叫んだ。
「バイキンマン、もう終わりにしてくれ。もう、繰り返さないでくれ!」
バイキンマンは痛みを堪えてアンパンマンに告げた。
「アンパンマン、それは無理だ。お前は光だ、この町の光だ。そして、光あるところには必ず影ができる、俺はその影なのさ。お前が町を照らそうとすればするほど、俺も大きな闇になってお前の前に現れる、ずっと昼間じゃあ、つまらんだろう。世界には夜の闇も必要なんだ。そして俺は夜の、影の世界でこそ幸せを感じれる。ずっとお前を狙い続けるさ。じゃあな、はひふへほ。」
バイキンマンが車のドアを閉めると同時に、ドキンの車は猛スピードで倉庫から走り去った。アンパンマンは思った。『夜の世界が幸せ?幸せってなんだ。バイキンマン、何が君の幸せなんだ?分からないまま終わる、そんなのは嫌だ。だから俺は行くよ、どこまでも。いつまでも君を諭し続ける・・・愛と勇気を知ってほしいから。明けない夜は、ないんだから・・・』
その隣でバタ子が声を出す「あっ、ジャムおじさんは大丈夫かしら!?チーズ!」
ワン!と吠えてチーズが走り寄ってくる、3人でジャムのところへ駆けていく。
「ジャムのおやじ、大丈夫か!?」
声をかけると、ジャムは気を取る戻した。「ん・・・あぁ。大丈夫みたいじゃ。しかし・・・終わったな。」
いつのまにか雨があがって、星の光る空を見上げながら、ジャムは呟いた。
「まだ、終わってなんかないさ。バイキンマンは、また来る。彼の言うように、俺と彼は光と闇なのかもしれない。終わりなんてないのかもな。」
アンパンマンがそう漏らすと、ジャムは言った。「いいじゃないか、今日のところは、だ。しかし、腹が減ったな・・・」
「ええ、お腹がすいたわ。」
「ワォン」
「何か、買ってきてやるよ。ひとっ走りな。」
そういって、アンパンマンは駆け出した。その背中を見送って、ジャムとバタ子は大きく声をだした。
「それいけ!アンパンマーン!」
遠くで、天丼屋が歌っている声が聞こえた。
Fin
Author:ロッシュ
I’m not OK
You’re not OK
But it’ OK
僕の頭の中に画像が浮かび上がりましたw
と言うより、チーズ、ドーベルマンってwwwwwwwww
顔がかけて、濡らされた時のアンパンマンの力が抜け縄すらほどく力がなかった所とかも勝手に想像してしまいましたよ・・w